就労支援の現場では、「支援しているのに、なぜかうまくいかない」「本人のために関わっているはずなのに、関係がギクシャクする」と感じる瞬間が少なからずあります。
特に、精神障害・発達障害・障害者雇用の支援では、支援者の関わり方ひとつで結果が大きく変わることも珍しくありません。
この記事では、
- 就労移行支援・就労継続支援・自立訓練
- 障害者雇用を支える支援員・職業指導員・相談支援専門員
- 新人支援員〜中堅・管理者
といった現場担当者向けに、 就労支援で特によくある5つのミスをQ&A形式で整理し、 背景・なぜ起きるのか・具体的な改善策まで踏み込んで解説します。
※筆者は、精神科クリニック、障害者就労支援施設、企業人事を経験し、現在は企業で人事を行うキャリアコンサルタントです。現場・医療・企業の三方向から見えてきた「支援がうまくいかない共通点」をベースにまとめています。
Q1. 本人の「やりたい」を最優先するのは本当に正しい支援?
よくあるミス
就労支援の現場で最も多いのが、
- 利用者さんの「やりたい仕事」をそのまま目標に設定する
- 現在の体調や生活リズムよりも希望職種を優先する
といったケースです。
一見すると「本人主体の支援」に見えますが、
- 就職後に体調を崩す
- 環境に適応できず早期離職
- 「やっぱり自分は働けない」と自己否定が強まる
という結果につながることも少なくありません。
なぜ起きるのか
このミスの背景には、支援者側の善意と恐れがあります。
- 本人の希望を否定してはいけないという思い
- 反発されたり、信頼関係が壊れることへの不安
- 「本人主体=希望をそのまま通すこと」と誤解している
しかし、本当の意味での本人主体とは、 現実を踏まえたうえで選べる状態をつくることです。
改善策|希望を「分解」する支援へ
改善のポイントは、希望をそのまま叶えることではなく、 希望の中身を丁寧に分解することです。
実践ステップ
- やりたい仕事をそのまま受け取らない
- どの要素に魅力を感じているかを確認
- 代替案・段階的目標を一緒に考える
支援者の質問例
- 「その仕事の、どんなところに惹かれていますか?」
- 「その中で、今の体調でもできそうな部分はどこでしょう?」
- 「まずは似た環境から試すとしたら、どんな形が良さそうですか?」
👉 希望を否定せず、現実とつなぐ。これが支援者の役割です。
Q2. 支援が手厚すぎると、なぜ逆効果になるの?
よくあるミス
- 応募書類をほぼ支援者が作成してしまう
- 面接対策で「こう答えてください」と細かく指示する
- トラブルが起きる前に先回りしてすべて対応する
一時的にはスムーズに進みますが、
- 本人が考えなくなる
- 支援がないと動けなくなる
- 就職後に一気に困りごとが噴出する
といった問題が起きやすくなります。
なぜ起きるのか
- 失敗体験をさせたくない
- 就職実績を早く出したい
- 支援者自身が「役に立っている実感」を得たい
こうした気持ちは自然ですが、 支援=代行になってしまうと、本人の力は育ちません。
改善策|「補助輪支援」を意識する
支援者は、自転車の補助輪のような存在です。
- ずっと支えるのではなく
- 徐々に手を離す
ことが重要です。
実践ポイント
- 7割は本人に任せる
- すぐ答えを教えず、考える時間を待つ
- 失敗しても振り返りまでセットで支援
声かけ例
- 「どう思いますか?まずは案を出してみましょう」
- 「一度やってみて、難しかったら一緒に考えましょう」
👉 **成功体験よりも「自分で乗り越えた体験」**が定着につながります。
Q3. 「就職=ゴール」になってしまう支援の落とし穴は?
よくあるミス
- 内定が出た時点で支援が一区切り
- 定着支援が形式的になる
- 就職後の生活を具体的にイメージしていない
何が問題なのか
障害者雇用では、 就職よりも「続けること」の方が難しいケースが多くあります。
- 環境変化による体調悪化
- 職場での人間関係のストレス
- 相談できずに我慢し続ける
これらを想定しないまま就職すると、 早期離職のリスクが高まります。
改善策|就職前から「定着」を設計する
支援の視点を変える
- 仕事内容だけで判断しない
- 職場の配慮体制・相談先を重視
就職前に整理したい項目
- 体調が悪くなる前兆
- 困ったときの相談ルート
- 配慮してほしいポイント
- NGな対応・言われ方
支援者の役割
- 本人と企業の「翻訳者」になる
- 本人が言語化できない不安を整理する
👉 就職は通過点。働き続ける準備こそが支援の本番です。
Q4. 支援者の価値観を押しつけると、何が起きる?
よくあるミス
- 「社会人なんだから我慢しよう」
- 「それくらい普通です」
- 「みんなやってますよ」
支援者にとっては励ましのつもりでも、 利用者さんにとっては否定として受け取られることがあります。
なぜ危険なのか
- 自己肯定感が下がる
- 本音を話さなくなる
- 支援関係が形だけになる
特に、精神障害や発達障害のある方は、 「普通」という言葉に強いプレッシャーを感じやすい傾向があります。
改善策|正解を示さず、選択肢を増やす
意識したいポイント
- 支援者の「当たり前」を基準にしない
- 判断は本人に委ねる
言い換え例
- ×「それは甘えです」
- ○「別の考え方もありますが、どう感じますか?」
- ×「社会では通用しません」
- ○「職場によって求められることは違いますね」
👉 支援とは、矯正ではなく伴走です。
Q5. 記録・情報共有が甘いと、なぜ支援が崩れる?
よくあるミス
- 支援内容が担当者個人の記憶に依存
- 記録はあるが活用されていない
- 担当変更時の引き継ぎが不十分
現場で起きがちな問題
- 支援方針が毎回変わる
- 利用者さんが混乱する
- 「前はOKだったのに」と不信感が生まれる
改善策|支援を「チームのもの」にする
最低限共有したい情報
- 体調悪化のサイン
- NG対応・OK対応
- 本人が安心する声かけ
- 過去にうまくいった支援
記録のコツ
- 長文よりも要点重視
- 誰が見ても分かる表現
- 定期的に見直す
👉 良い支援ほど、個人技にしないことが大切です。
まとめ|「ミス」を減らす支援者に共通する視点
就労支援で大切なのは、 正解を与えることではなく、本人が選び続けられる状態をつくることです。
- 希望と現実をつなぐ
- 手を出しすぎない
- 就職後まで見据える
- 価値観を押しつけない
- チームで支援する
これらを意識するだけで、 支援の質は確実に変わります。
支援に悩んだら|就労移行支援・自立訓練という選択肢
ここまで読んで、「自分たちの支援だけで抱え込みすぎているかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。
就労支援のミスは、支援者個人の力量不足ではなく、環境や仕組みの問題で起きていることも多いのが実情です。
そんなときに検討したいのが、
- 就労に向けた生活リズムづくり
- ビジネスマナー・コミュニケーション訓練
- 企業実習や段階的な就職支援
を専門的に行っている 就労移行支援・自立訓練 です。
就労移行支援・自立訓練が向いているケース
- いきなり就職するには不安が強い
- 体調や生活リズムがまだ安定していない
- 働く前に「練習の場」が必要
このような場合、無理に就職を急がせるよりも、 専門的な支援につなぐことで定着率が上がるケースは少なくありません。
👉 就労移行支援・自立訓練について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

